
2025年12月11日、自民党が「年収の壁」を2026年に「168万円」とする案を固めたという報道が入ってきています。
これは、国民民主党が求めていた「178万円」に対する自民党の新たな具体案(対案)となります。
最新の報道内容と、この「168万円」という数字が出てきた背景を整理します。
1. ニュースのポイント:自民党案「168万円」
自民党は、2026年(令和8年)の所得税の非課税枠(いわゆる年収の壁)について、以下の内容で調整に入りました。
- 新提案額: 168万円
- 計算根拠:
- 以前より議論されていた「160万円」という数字をベースに、直近2年間の**物価上昇率(約6%)**を反映させたもの。
- 具体的には、「現行の160万円案」から8万円増額させる計算です。
- 内訳のイメージ:
- 基礎控除: 現行の48万円 → 62万円 程度へ引き上げ
- 給与所得控除: 現行の55万円 → 69万円 程度へ引き上げ
- これらを合計し、調整計算を行うことで非課税ラインを引き上げます。
2. なぜ「168万円」なのか?(数字の背景)
この数字は、国民民主党が主張する「178万円」と、財源を懸念する政府・自民党の間での「落とし所」としての意味合いと、理論的な根拠(物価スライド)を持たせる狙いがあります。
| 比較 | 金額 | 根拠・ロジック |
| 現行 | 103万円 | 1995年時点の基準のまま。 |
| 自民党案 (2025年ベース) | 160万円 | これまでの協議で「課税最低限を160万円とする」方向で調整されていた数字。 |
| 自民党案 (2026年) | 168万円 | 上記160万円に、物価上昇率(インフレ)を加味して増額。 |
| 国民民主党案 | 178万円 | 最低賃金の上昇率(1.73倍)を根拠に算出。 |
3. 今後の焦点
この自民党案に対し、国民民主党が「178万円に届いていない」として反発するか、あるいは「物価連動という合理的な基準が導入された」として合意に向かうかが最大の焦点となります。
- メリット: 物価上昇に合わせて自動的に壁が上がる仕組み(インフレ調整)が導入されれば、今後も実質的な増税を防げる可能性があります。
- 懸念点: 国民民主党の公約(178万円)とは10万円の開きがあります。
もしこの案で決定すれば、パート・アルバイトの方の手取りが増えるだけでなく、基礎控除の引き上げは全ての納税者に減税効果をもたらすため、現役世代全体に影響があります。
週内にも自民・公明・国民民主の3党で再協議が行われる見通しです。
関連動画
今回の「168万円案」が出る直前の、3党間での「178万円を目指す」という合意形成の経緯に関する動画です。ここからの修正案として今回の数字が出ています。
… 「178万円目指す」自公国が合意 “年収の壁”25年から引き上げ …
この動画は、今回の「168万円」という数字が出てくる前提となる、3党間の合意形成(178万円を目指すというスタートライン)を理解するのに適しています。
問題点を整理
1. 国民民主党案(178万円)との「10万円の乖離」
最も直接的な政治的課題です。
- 約束との違い: 国民民主党は衆院選で「178万円」を公約に掲げ、支持を得ました。「168万円」では公約違反と受け取られかねず、簡単に合意できるか不透明です。
- 計算の根拠が違う:
- 国民民主: 最低賃金の上昇率(約1.73倍)を基準に「労働者の手取りを増やす」考え。
- 自民党: 物価上昇率(インフレ)を基準に「通貨価値の変動に合わせる」考え。
- この「基準の違い」は、将来さらに壁を引き上げる際のルール作りにおいて火種になります。
2. 「社会保険の壁(106万・130万円)」は残る
これが働き手にとって最大の実質的な問題です。
- 手取り減少の逆転現象: 税金の壁が168万円になっても、年収106万円(または130万円)を超えると、社会保険料(厚生年金・健康保険)の負担が発生します。
- 働き控えは解消しない恐れ: 社会保険料は税金よりも負担率が高いため、税金がゼロでも「社会保険料を払いたくないから、結局106万円で働くのを止める」という人が減らない可能性があります。
- 政府はこの「社会保険の壁」についても並行して議論していますが、企業への助成金などで凌ぐのか、制度自体を変えるのか、まだ結論が出ていません。
3. 巨額の税収減(国・地方の財源不足)
基礎控除などの引き上げは、壁を気にしているパート・アルバイトだけでなく、納税者全員(高所得者含む)の減税になります。
- 7〜8兆円規模の減収: 試算では、壁を大幅に引き上げると国と地方合わせて年間7〜8兆円程度の税収が失われます。
- 地方自治体の反発: 住民税の大幅な減収に直結するため、全国の知事や市長から「行政サービス(教育、福祉、インフラ維持など)ができなくなる」と猛烈な反対が起きています。
- 穴埋めはどうする?: 消費税増税などは論外とされる中、どこか別のところ(高所得者への増税など)でバランスを取る必要が出てきます。
4. 高所得者への対応(調整メカニズム)
上記の「財源不足」を補うため、自民党案では「年収2300万円を超える富裕層」などは減税の対象外にする(控除を引き上げない)方向で検討されています。
- しかし、「どこで線引きをするか」「中流層(年収1000万円前後)への恩恵はどうするか」といった設計が複雑になり、サラリーマン増税のような批判を招くリスクもあります。
試算すると
年収の壁が「103万円」から引き上げられた場合、パート・アルバイトの方だけでなく、納税者(サラリーマンなど)全体の手取りが増えます。
所得が高くなるほど税率(所得税率)が上がるため、「年収が高い人ほど減税額が大きくなる」という特徴があります。
自民党案(168万円)と国民民主党案(178万円)それぞれの場合について、年収別の減税額(所得税+住民税の合計)を試算しました。
年収別・年間減税額の目安(試算)
| あなたの年収 | 所得税率(目安) | 自民案(168万円)の減税額 | 国民民主案(178万円)の減税額 |
| 200万円 | 5% | 約 8.5万円 | 約 11.3万円 |
| 300万円 | 5% | 約 9.8万円 | 約 11.3万円 |
| 500万円 | 10% | 約 13.0万円 | 約 15.0万円 |
| 700万円 | 20% | 約 19.5万円 | 約 22.5万円 |
| 1000万円 | 23% | 約 21.5万円 | 約 24.8万円 |
| 2000万円 | 40% | 約 32.5万円 | 約 37.5万円 |
| 2300万円超 | – | 0円 (対象外へ) | (制度設計次第) |
※ 計算の前提
- 減税額の内訳: 所得税(国税)+住民税(地方税10%)の減少分。
- 自民案(168万円): 控除額が現在より65万円増えると仮定。
- 国民民主案(178万円): 控除額が現在より75万円増えると仮定。
- 家族構成や他の控除(生命保険料控除など)により実際の金額は変動します。あくまで目安です。
ポイント解説
- 年収500万円~700万円の中間層
- 自民案でも年間13万~20万円程度の手取り増が見込まれます。月額にすると1万円~1万6千円程度のプラスとなり、影響は大きいです。
- 高所得者(年収850万円以上~)
- 所得税率が高いため、控除が増えることによる恩恵(減税額)が最も大きくなります。
- 年収2000万円クラスでは、自民案でも年間30万円以上の減税となります。
- 「2300万円」の線引き(高所得者の除外)
- 自民党案では、財源確保と格差是正のため、「年収2300万円を超える人」は減税の対象外(控除額を現在のまま据え置く、あるいは段階的に減らす)とする調整が行われています。
- これにより、超富裕層には恩恵がいかないような仕組みになる見込みです。
なぜ「高所得者ほど得」なのか?
日本の税制は「累進課税」だからです。
- 壁が上がると、課税される所得が全員一律で減ります(自民案なら65万円分)。
- 年収300万円の人は、もともと低い税率(5%)で払っていた分が安くなるだけですが、年収2000万円の人は、高い税率(40%)で払うはずだった分が安くなるため、結果として戻ってくる金額が大きくなります。
この「高所得者優遇」との批判を避けるために、2300万円での線引きが議論されています。
まとめ
「168万円案」は、「国民民主党の顔を立てつつ(増額)、財政規律も守りたい(物価連動という理屈)」という自民党の苦肉の策と言えます。
しかし、働き手にとっては**「税金はかからないけど、社会保険料で手取りが減るから、結局たくさん働けない」という根本問題が解決されるかどうかが不明確**なままです。
今後のニュースでは、単に金額(168万か178万か)だけでなく、「社会保険の壁(106万円の壁)とセットでどう対策されるか」に注目する必要があります。


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