
富士山の無謀登山 閉山後の登山
富士山の閉山後(オフシーズン)の登山は、毎年深刻な遭難事故を引き起こし、社会問題化しています。ちょうど先日、2026年9月10日をもって今年の富士山も閉山を迎えました。なぜこれほどまでに問題視されるのか、その背景と実態はどうなっているのでしょうか。
閉山=「セーフティネットの完全喪失」
閉山日を過ぎると、山頂を含む六合目以上のすべての山小屋、救護所、公衆トイレが冬季閉鎖されます。 さらに、夏の間は通信各社が増設していた携帯電話の基地局も撤去されるため、電波はほとんど繋がらなくなります。誘導標識やロープも外され、落石を防ぐなどの登山道の維持管理も一切行われません。
厳冬期の富士山が牙をむく理由 富士登山オフィシャルサイト
ザイテングラートのような北アルプスの岩稜帯を歩破する技術や体力があっても、冬の独立峰・富士山のリスクはまったく別の次元にあります。
雪と氷に覆われた冬季の富士山. 出典: 山と溪谷オンライン
富士山の真の怖さ
突風とブルーアイス
冬から春先にかけて、風速40mを超える突風が吹き荒れます。強風で叩かれた雪面は磨き上げられ、アイゼンの刃すら弾き返す「巨大な氷の斜面(ブルーアイス)」と化します。
滑落停止はほぼ不可能
ひとたびバランスを崩せば、ピッケルと12本爪アイゼンを完璧に扱う熟練のアルピニストであっても、数百メートル下まで滑落を止めるのは極めて困難です。
法的な位置づけと「無謀登山」の実態
「閉山後の登山は法律違反か」という議論が度々起きます。厳密には道路法に基づく登山道(県道)の通行禁止であり、山自体への立入を罰則付きで一律に禁じる法律はありません。 しかし、国や自治体のガイドラインでは「万全な準備(高度な雪山装備、登山計画書の確実な提出、携帯トイレの持参など)をしない者の入山は禁止」と強く定められています。
問題なのは、こうした技術も装備も持たない訪日外国人客や軽装の登山者が、夏と同じ感覚で強行突破してしまうケースです。過去5年間で静岡県側だけでも閉山期に48人が遭難し、うち12人が亡くなっています(致死率25%)。
かつての北アルプスはヘリ救助が有料だった?
かつて(そして現在も一部の状況では)、北アルプスでのヘリコプター救助には高額な費用が請求されるケースがありました。ただしこれには少し複雑な事情が絡んでいました。
「ヘリを選べない」という当時の仕組み
長野県側の北アルプスにおける2000年代前半までの救助事情として、「どのヘリコプターが来るかで有料か無料かが決まる」という実態がありました。
- 警察ヘリ(県警ヘリ): 無料
- 民間ヘリ: 有料(非常に高額)
当時、遭難が発生してヘリを要請する際、警察ヘリが出動できるか、あるいは民間ヘリの手配になるかは、天候や他の救助事案の状況によって決まりました。重要なのは、遭難者側で「無料の警察ヘリが良い」と選ぶことはできなかったという点です。
そのため、救助要請時には「民間ヘリになって高額な費用が発生するかもしれないが、それでも呼ぶか?」という遭難者の同意の確認が必要でした。費用を払えない(払いたくない)場合は、ヘリによる救助そのものを諦めざるを得ないというシビアな状況だったのです。
公的ヘリの有料化議論
また、2000年代前半の田中康夫知事時代には、長野県として「防災ヘリによる山岳救助の有料化」が本格的に検討された時期がありました。結果的にこの時の話は立ち消えとなりましたが、「北アルプス=有料化」というニュースや議論が強く印象に残っている登山者は少なくありません。
現在の状況
現在の北アルプスでも、県警ヘリや防災ヘリといった公用ヘリコプターの出動自体は原則無料です。しかし、秋の連休などのハイシーズンで公用ヘリが出払っている場合などは、協定を結んでいる東邦航空などの民間ヘリが飛ぶことになり、その場合は現在でも1時間あたり数十万円という費用が遭難者に請求されます。
奥穂高岳へのザイテングラートや涸沢周辺などの険しいルートに単独で挑む際、十分な補償額の山岳保険への加入が絶対に欠かせないのは、こうした「民間ヘリが出動した際の高額な請求リスク」が今も変わらず存在しているためです。
人力捜索は今でも有料
ヘリ救助が難しく、不明者の居場所も分からない場合、地元の山岳関係者や消防防団も捜索に参加します。その場合の捜索費用は実費となります。私も何度か「捜索隊」として山岳会や消防団の捜索隊に参加しましたが、1日当たりの日当は、遭難者及び親族に請求されます。
以上の事から、「山岳保険」に未加入の登山者の「入山規制」も必要ではないでしょうか。
ついに動いた富士山「ヘリ救助の有料化」
先ほど北アルプスでの民間ヘリ救助費用の話をしましたが、富士山の無謀登山への対策としても、今まさに大きな動きがあります。
遭難が相次ぐ事態を受け、つい先日(2026年9月上旬)、山梨県は閉山期の富士山での遭難に対し、県の防災ヘリによる救助を有料化する方向で最終調整に入りました。 これまで原則無料だった公的な防災ヘリですが、「閉山期であること」「軽装であること」などを条件に、無謀な入山者には金銭的負担を求める仕組みへと転換しようとしています。
「自己責任」という言葉を履き違えた無謀な登山が、結果的に行政のルールや救助体制を厳格化させているのが現状です。


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