硫化水素は、下水道、温泉、化学工場などで発生しやすく、極めて毒性の強いガスです。労働安全衛生法などの法令で厳しく規制されています。
以下に、その危険性と作業上の注意点、関連法規について整理します。
1. 硫化水素の主な危険性
硫化水素には「見えない」「重い」「鼻を麻痺させる」という恐ろしい特徴があります。
- 強い毒性(呼吸停止): 高濃度では数回の吸入で失神し、呼吸麻痺により即死(いわゆる「ノックダウン」)する危険があります。
- 嗅覚の麻痺: 低濃度では「腐った卵のような臭い」がしますが、濃度が上がるとすぐに嗅覚が麻痺して臭いを感じなくなります。 「臭わないから安全」という判断は命取りです。
- 低所に滞留: 空気よりわずかに重いため(比重1.19)、ピット、マンホール、槽の底などの低い場所に溜まりやすい性質があります。
- 可燃性・腐食性: 爆発の危険性(爆発範囲 4.3〜45%)があるほか、金属を腐食させる性質も持っています。
| 濃度(ppm) | 身体への影響 |
| 0.02 | 臭いを感じる(感知閾値) |
| 10 | 許容濃度(作業の基準)。目の刺激が始まる |
| 100 | 嗅覚が麻痺する。 数分で頭痛・吐き気 |
| 700 | 即座に意識不明、数分で死亡 |
2. 地下ピットなどでの作業上の注意点
硫化水素が発生するおそれのある場所(第二種酸素欠乏危険場所)での作業には、以下の対策が義務付けられています。
① 測定の徹底(作業前・中)
- 入構前: 必ずガス検知器で「酸素濃度」と「硫化水素濃度」を測定します。
- 基準値: 酸素 18%以上、かつ硫化水素 10ppm 以下であることを確認します。
- 継続測定: 作業中も濃度が変化する可能性があるため、個人用検知器を携帯し、常時モニターします。
② 換気の実施
- 作業開始前から終了まで、継続的に送風機による換気を行います。
- ピットの底など「空気のよどみ」をなくすよう、ダクトを奥まで入れる工夫が必要です。
③ 保護具の使用
- 換気が不十分な場合や緊急時は、空気呼吸器(酸素ボンベ式)または送気マスクを着用します。
- 注意:防毒マスク(吸収缶)は、酸素欠乏場所では使用できません。
④ 監視人の配置
- 作業場の外に監視人を配置し、作業者との連絡を常に保ちます。異常時に救出者がそのまま飛び込んで二次災害になるケースが非常に多いため、救出時も必ず空気呼吸器を着用させます。
3. 関連する法律・規則
硫化水素を取り扱う、あるいは発生する場所での作業は、以下の法律によってルールが定められています。
- 労働安全衛生法: 事業者が労働者の安全を守るための基本法です。
- 酸素欠乏症等防止規則(酸欠則):
- 硫化水素が発生する場所を「第二種酸素欠乏危険場所」と定義しています。
- 酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者の選任が義務付けられています。
- 特定化学物質障害予防規則(特化則): 硫化水素を原料として製造・使用する場合、特定の設備基準や健康診断が求められます。
4.コンクリートへの影響
鉄筋コンクリートにおいて「錆(鉄筋の腐食)」は、建物の寿命を縮める最も致命的な劣化要因の一つです。
コンクリートは本来、強いアルカリ性によって鉄を錆から守っていますが、そのバリアが破れると以下のステップで破壊が進みます。
1. 錆がコンクリートを破壊するメカニズム
鉄が錆びると、元の体積の 2.5倍〜数倍に膨張 します。この膨張圧がコンクリートを内側から押し壊します。
- 鉄筋の膨張: コンクリート内部で鉄筋が錆び、体積が増える。
- ひび割れの発生: 膨張に耐えられなくなり、コンクリート表面に鉄筋に沿ったひび割れができる。
- 爆裂(ばくれつ)現象: ひび割れからさらに水や酸素が入り、錆が加速。最終的にコンクリートが剥がれ落ち、鉄筋がむき出しになる。
2. 錆が発生する2大原因
なぜ、本来アルカリ性で守られているはずのコンクリート内部で錆が出るのでしょうか。
- 中性化:大気中の二酸化炭素($CO_2$)が浸透し、コンクリートのアルカリ性が失われる現象。pHが低下すると、鉄筋表面の保護膜(不動態皮膜)が壊れて錆び始めます。
- 塩害:海風や融雪剤に含まれる「塩化物イオン」が内部に浸入すること。アルカリ性が残っていても、塩分が直接この保護膜を破壊して激しい錆を引き起こします。
3. コンクリートへの深刻な影響
錆を放置すると、単なる見た目の悪化(茶色の錆汁)だけでなく、構造全体の危険につながります。
| 影響項目 | 内容 |
| 強度の低下 | 鉄筋が細くなる(断面減少)ことで、本来耐えられるはずの荷重に耐えられなくなる。 |
| 付着力の喪失 | 鉄筋とコンクリートがバラバラになり、一体としての強度がなくなる。 |
| 剥落事故 | コンクリートの塊が剥がれ落ち、人や車に当たる二次被害のリスク。 |
| 耐震性の低下 | 地震の揺れに対して粘り強さがなくなり、倒壊しやすくなる。 |
4. 早期発見のサイン
以下のような症状が見られたら、内部で錆が進行しているサインです。
- コンクリート表面に流れたような**茶色のシミ(錆汁)**がある。
- 鉄筋に沿って、真っ直ぐなひび割れが入っている。
- 壁を叩くとポコポコと軽い(浮いている)音がする。
硫化水素に強い素材
硫化水素(H2S)は、多くの金属や樹脂を腐食・劣化させる非常に腐食性の高いガスです。特に温泉地、下水道、石油・ガスプラントなどで使用される素材選びには注意が必要です。
硫化水素に強い主な素材を、金属、樹脂・ゴム、コーティングの3つのカテゴリーに分けて紹介します。
1. 金属素材(耐食合金)
金属の場合、硫化水素による硫化物応力腐食割れ(SSC)や水素脆化を防ぐ必要があります。
- ニッケル基合金(ハステロイ、インコネルなど):最も高い耐性を持つグループです。過酷な腐食環境下でも安定しており、プラントのバルブや継手に使用されます。
- 二相ステンレス鋼(スーパーデュプレックスなど):クロムとモリブデンを多く含み、一般的なステンレス(SUS304等)よりも格段に強い耐食性を持ちます。
- チタンおよびチタン合金:海水や硫化水素に対しても非常に優れた耐食性を示します。
- アルミニウム合金:乾燥した硫化水素には比較的強いとされていますが、水分が含まれる(湿潤)環境では腐食が進む場合があります。
注意:銅(および真鍮)は厳禁
硫化水素は銅と非常に激しく反応し、黒色の硫化銅を生成してボロボロに腐食させます。電子基板や配線が温泉地で故障しやすいのはこのためです。
2. 樹脂・ゴム素材(プラスチック・エラストマー)
樹脂は金属のような「サビ」は起きませんが、分子が破壊される「劣化」に注意が必要です。
- フッ素樹脂(PTFE, PFA, FKMなど):「テフロン」や「バイトン(FKM)」として知られる素材です。硫化水素に対してほぼ完璧な耐性を持ち、パッキンやシール材の第一選択となります。
- PPS(ポリフェニレンスルファイド):高い耐薬品性と耐熱性があり、硫化水素環境下のセンサー部品や自動車部品に使われます。
- PVC(塩化ビニル):常温であれば硫化水素に強く、下水道などの配管によく使用されます。
- PE(ポリエチレン) / PP(ポリプロピレン):比較的安価で耐薬品性が高く、タンクやライニングに使用されます。
3. コーティング・対策技術
既存の設備を保護する場合や、素材自体の強度と耐食性を両立させたい場合に使用します。
- フッ素コーティング:金属表面にフッ素樹脂の膜を作ることで、硫化水素の接触を遮断します。
- 防湿・防硫コーティング剤:電子基板専用のコーティング剤(パラキシリレン系など)があり、温泉地の家電製品や工業用パソコンの延命に使用されます。
- エポキシ塗装:重防食塗装として、コンクリート構造物や鋼構造物の保護に用いられます。
素材選定のポイント(まとめ)
| 用途 | 推奨素材 |
| 高度な耐久性(金属) | ハステロイ C-276、インコネル 625、チタン |
| 一般的な配管・容器 | PVC、ポリエチレン、FRP |
| シール・パッキン | フッ素ゴム(FKM)、FFKM(パーフロ) |
| 電子基板の保護 | フッ素系・シリコン系防硫コーティング剤 |



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