名古屋城祉の見どころ「石垣」
名古屋城は、徳川家康が築いた「日本三名城」の一つであり、江戸時代の城郭建築の粋を集めた傑作です。戦前までは木造天守が存在し、日本の国宝第一号に指定されていました(戦時中に焼失)。現在は天守閣の工事中で内部に入ることはできませんが(木造復元計画のため閉館中)、「城址(じょうし)」としての見どころはむしろ、建物以外の場所に凝縮されています。
歴史好きや散策好きの方にぜひ注目していただきたい、名古屋城の魅力を4つのポイントでご紹介します。
日本最大級の「石垣」と職人の刻印
名古屋城の石垣は、加藤清正をはじめとする諸大名が競い合って築いたもので、その規模と美しさは圧巻です。
- 扇の勾配: 天守台の石垣は、上に行くほど垂直に近くなる美しい曲線を描いており、「扇の勾配」と呼ばれます。
- 2万個を超える「刻印」: 石垣をよく見ると、記号や文字が彫られています。これは石材の持ち主を明確にするための「刻印」で、その数は日本最多と言われています。宝探しのように探して歩くのも、城址ならではの楽しみです。
- 清正の石曳き: 最大の石「清正石(きよまさいし)」など、巨石を運び込んだ当時の技術力を間近で体感できます。

名古屋城の石垣は、徳川家康が西国大名たちに命じて築かせた「天下普請(てんかぶしん)」の代表作です。約20家の大名が分担して築いたため、場所によって積み方や石の表情が異なるのが最大の特徴です。
名古屋城の石垣に見られる主な特徴と、大名ごとの違いを詳しく解説します。

石垣の最大の特徴:「扇の勾配」
名古屋城の石垣、特に天守台で見られる最大の特徴が「扇の勾配(おうぎのこうばい)」です。
- 形状: 下部は緩やかで、上部に行くほど垂直に近くなる美しい曲線を描きます。
- 理由: 石垣の重みを分散させて崩れにくくする構造的な強さと、敵が登りにくい「武者返し」の機能を兼ね備えています。
- 担当: これは築城の名手、加藤清正が担当したエリアに顕著に見られます。

大名による石垣の違い
名古屋城は、各エリアごとに担当する大名(丁場:とうば)が決まっていました。そのため、各大名の技術やこだわりが石垣に現れています。
施工分担の主な例
| 担当エリア | 担当大名 | 特徴・エピソード |
| 天守台 | 加藤清正 | 最も重要な場所。精巧な「扇の勾配」と、巨石を多用した堅固な造り。 |
| 本丸南東部 | 黒田長政 | 本丸東二之門正面に最大の巨石「清正石(推定10トン)」がある(実際は黒田の担当)。 |
| 本丸北東部 | 福島正則 | 石材の加工が丁寧で、角の部分(算木積み)が非常に鋭利で美しい。 |
| 二之丸 | 前田利常 | 比較的自然な石の形を活かす傾向があり、石の表面に凹凸が見られる。 |
技術的な違い(前田家 vs 鍋島家など)
近年の調査では、大名によって「石の加工精度」に違いがあることがわかっています。
- 鍋島家: 石の表面を平らに加工し、隙間に「間詰石(まづめいし)」をびっしり詰めるため、表面が滑らか。
- 前田家: 石の自然な面(割ったままの面)を表面に出すことが多く、鍋島家と比べると表面に凹凸がある。
「刻印(こくいん)」:大名たちのアイデンティティ
石垣をよく見ると、石の一つひとつに「◯」「△」「卍」や漢字などの記号が刻まれています。これが刻印です。
- 目的: 20もの大名が同時に工事を行ったため、自分の藩が運んできた石を他藩と間違えないようにするための「所有権の明示」です。
- 種類: 加藤家の家臣を示す文字や、石工集団の印、産地を示すものなど、名古屋城内だけで数百種類、数十万個以上の刻印が確認されています。

刻印の種類
刻印の種類は非常に豊富で、数百種類以上にのぼると言われています。
- 記号系: 〇(丸)、△(三角)、卍(まんじ)、木槌、鳥居、扇、軍配、矢筈(やはず)など。
- 文字系: 担当した家臣の名前(例:「加藤肥後守内」)や、数字、地名などが彫られていることもあります。
おすすめの観察スポット
- 本丸東門付近: 間近で多くの種類の刻印を見ることができます。
- 天守台(東側・南側の石垣): 加藤清正の家臣たちの名前が刻まれた大きな石など、有名な刻印が集中しています。
- 愛知県図書館: かつての「御園御門」跡で、ここにも刻印のある石垣が残っています。

巨石(鏡石)による権力アピール
大名たちは、自分の担当エリアの目立つ場所に、あえて非常に大きな石(鏡石)を配置しました。
- 清正石: 本丸の入り口付近にある巨大な石です。実際には黒田長政が運んだものですが、「これほどの巨石を運べるのは清正に違いない」という当時の人々の畏敬の念から、清正の名がついたと言われています。
- 意味: 「これほど巨大な石を運べるだけの財力と動員力がある」という、徳川幕府や他藩へのデモンストレーションでもありました。

石材の産地
石垣に使われている石の種類も多様です。
- 瀬戸内海産: 庵治(香川県)や小豆島、犬島(岡山県)などの花崗岩。水軍を持つ西国大名が船で運びました。
- 近隣産: 篠島(愛知県)や幡豆(愛知県)など、地元の石も多用されています。
豆知識: 石を割るための「矢穴(やあな)」の跡も、大名や時代によってサイズや間隔が異なります。前田家は矢穴の間隔が長く、加藤家は中程度といった特徴があり、考古学的な判別のヒントになっています。
次に名古屋城へ行かれる際は、ぜひ石の表面の「刻印」や、場所によって違う「石の表情」に注目してみてください。
その他の施設(復元)
豪華絢爛の極み「本丸御殿」
2018年に復元が完了した本丸御殿は、かつて「近世城郭御殿の最高傑作」と称えられた姿を完全に再現しています。
- 五感を刺激する美: 桧の香り漂う空間に、重要文化財の障壁画を忠実に再現した「竹林豹虎図」などが並びます。
- 上洛殿(じょうらくでん): 将軍専用の豪華な装飾は、まさに「尾張徳川家」の権威の象徴です。
名勝「二之丸庭園」
藩主が過ごした庭園として、日本最大級の広さを誇ります。
- 大名庭園の趣: 2025年現在、茶屋「余芳(よほう)」の復元整備も進んでおり、江戸時代の景色が徐々に蘇っています。
- ダイナミックな石組み: 険しい崖や滝を表現した石組みは、歩くたびに景色が変わり、都会の真ん中であることを忘れさせてくれます。
歴史を語る「現存する重要文化財」
空襲を免れ、江戸時代からそのまま残る建物も必見です。

- 西北隅櫓(せいほくすみやぐら): 清洲城の資材を転用したとされる「清洲櫓」とも呼ばれ、圧倒的な存在感を放ちます。
- 西南隅櫓: 定期的に特別公開が行われており、当時の城の防衛機能(石落としなど)をリアルに見学できます。
豆知識: 名古屋城の象徴「金のシャチホコ」は、実は左右で大きさと重さがわずかに違います(北側が雄、南側が雌)。
2026年の楽しみ方
現在、天守閣は外観鑑賞のみですが、その分、周囲の「金シャチ横丁」で名古屋グルメを楽しんだり、2025年7月にオープンした隣接の「IGアリーナ(新愛知県体育館)」周辺の新しい景観と歴史的な城跡の対比を楽しんだりするのが、今の名古屋城のトレンドです。



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