中国国家宣伝への無断使用　日本のTIKTOK映像～国家情報法

中国国家宣伝への無断使用
日本の動画を「宣伝」に利用する手法
インフルエンサーを通じた「正の宣伝」
中国の「国家情報法」とTikTokのリスク
主な利用パターンと注意点
中国とTikTokの関係
アメリカにおける状況（2025年12月現在）
後の展望

中国国家宣伝への無断使用

日本のTikTok動画が中国の「国家宣伝（プロパガンダ）」や世論工作に利用されるケースは、近年非常に巧妙化しており、主に「コンテンツの再定義」と「影響力工作」の2つの側面から見ることができます。

具体的にどのような手法が取られているのか、2025年現在の最新動向を含めて詳しく解説します。

日本の動画を「宣伝」に利用する手法

日本で投稿された何気ない日常動画が、中国のSNS（抖音や微博など）に転載される際、元の意図とは異なる文脈（ナラティブ）を付け加えられ、中国の優位性を強調するために使われることがあります。

「衰退する日本」の強調:日本の過疎化した村、空き家、ホームレス、あるいは値上げに苦しむ市民の動画を転載し、「西側の資本主義国家は衰退しており、中国こそが成長している」という文脈で紹介されます。
福島第一原発の処理水問題:日本の一般人が処理水について懸念を述べている動画や、魚を食べるのをためらっているようなシーン（あるいは無関係な動画）を抽出し、「日本人自身も反対している」という強力なプロパガンダ素材として利用される事例が多く見られました。
AIによる偽字幕・吹き替え:日本のニュース番組やインタビュー動画に、全く異なる内容の中国語字幕やAI音声を被せ、あたかも日本人が中国を絶賛している、あるいは自国を批判しているかのように捏造するケースが報告されています。

インフルエンサーを通じた「正の宣伝」

中国政府やその関連組織が、日本在住のインフルエンサーや日本人クリエイターを間接的に利用して、中国に有利な情報を発信させる手法です。

「親中派」コンテンツの増幅:中国の文化や技術を称賛する日本のTikTok動画に対し、中国系のBot（ボット）アカウントが一斉に「いいね」やシェアを行い、アルゴリズムを操作して動画をバズらせる「影響力工作」が指摘されています。
招待旅行とコンテンツ制作:中国政府系の団体が日本のインフルエンサーを中国（特に新疆ウイグル自治区やチベットなど、国際的に批判を受けている地域）に招待し、「現地の生活は幸せで平和だ」という動画をTikTokで投稿させるケースがあります。これは「隠れたプロパガンダ」として警戒されています。

中国の「国家情報法」とTikTokのリスク

根本的な問題として、TikTok（バイトダンス社）が中国の「国家情報法」の対象であることが挙げられます。

データの要請:法律上、中国政府はTikTokに対し、情報の提供や工作活動への協力を命じることができます。
情報の選別:日本人が見ているTikTokのタイムラインにおいて、中国にとって不都合な動画（人権問題など）が表示されにくくし、逆に中国に親近感を抱かせる動画（観光、美食、技術など）が表示されやすく調整される「ソフト・パワーの操作」が懸念されています。

主な利用パターンと注意点

手法	内容	目的
文脈のすり替え	日本の社会問題を強調して転載	中国制度の優位性の誇示
AI捏造動画	日本人の発言を嘘の字幕で上書き	中国国内向けの愛国心高揚
インフルエンサー利用	招待旅行等での「平和な中国」発信	国際的な批判の払拭
アルゴリズム操作	特定の動画を意図的に拡散	日本人の対中感情の改善

中国とTikTokの関係

TikTok（ティックトック）と中国の関係は、現在、国際的な政治・セキュリティ面で最も注目されているトピックの一つです。主なポイントを分かりやすく整理しました。

運営会社と資本関係

運営会社: バイトダンス（ByteDance / 字節跳動）という中国・北京に本社を置くIT企業です。
創業: 2012年に張一鳴（チャン・イーミン）によって設立されました。
資本構成: バイトダンス自体はグローバルな投資家（米国のソフトバンク、セコイア・キャピタルなど）から多額の出資を受けていますが、中国企業であるため、中国の国内法（国家情報法など）の適用を受ける立場にあります。

「TikTok」と「抖音（Douyin）」の違い

実は、中国国内で使われているアプリと、日本や米国で使われているアプリは完全に別物として運営されています。

抖音 (Douyin): 中国国内向け。中国の検閲ルールに従い、コンテンツも国内に限定されています。
TikTok: 中国国外向け。データセンターを中国外（米国、シンガポール、アイルランドなど）に置き、中国国内からは原則としてアクセスできない仕組みになっています。

なぜ「中国との関係」が問題視されているのか？

米国を中心とした各国政府が懸念しているのは、主に以下の3点です。

データプライバシー: 中国の「国家情報法」により、政府が要請すれば企業は顧客データを提供しなければならないのではないか、という懸念。
世論工作（プロパガンダ）: アルゴリズムを操作して、中国政府に都合の良い情報を拡散したり、不都合な情報を抑制したりできるのではないかという疑念。
スパイ活動: アプリを通じてデバイス内の機密情報にアクセスされるリスク。

現在の状況（2025年の動向）

アメリカでの規制: 米国では2024年に「TikTok禁止法（売却強制法）」が成立しました。これは、バイトダンスがTikTokの米国事業を非中国企業に売却しなければ、全米で配信を停止するというものです。
裁判の結果: 2025年1月、米連邦最高裁がこの規制を「合憲」とする判断を下したとの報道があり、バイトダンスは「売却」か「サービス停止」かの厳しい選択を迫られています。
企業の対策: TikTok側は、米国ユーザーのデータを米国内のサーバー（オラクル社）に隔離する「プロジェクト・テキサス」などを実施し、中国政府の影響を否定し続けています。

本社機能の分散

批判をかわすため、TikTokは現在、シンガポールとロサンゼルスにグローバル本社を置いています。CEOのショウ・ジ・チュウ氏もシンガポール人であり、「中国企業ではない」というイメージを強調する戦略をとっています。

2025年12月末現在の最新状況を踏まえると、TikTokを巡る情勢は「法的な強制力」と「トランプ政権による政治的判断」の間で、非常に複雑な局面が続いています。

これまでの経緯と、2025年末時点でのポイントを整理しました。

アメリカにおける状況（2025年12月現在）

2025年1月に最高裁が禁止法を「合憲」とした後、トランプ大統領が就任したことで、事態は「即時禁止」から「交渉による延命」へとシフトしています。

売却期限の延長: 本来の期限であった2025年1月を超え、トランプ政権は「アメリカの投資家による買収」や「さらなるデータ管理の透明化」を条件に、執行を事実上先送りしている状態です。
「トランプ氏の変心」の影響: トランプ氏は「TikTokを禁止すればMeta（Facebook）が独占的になりすぎる」との考えから、禁止を強行せず、米国内の雇用や経済的利益を優先する姿勢を見せています。
現状のユーザーへの影響: 2025年末現在、アメリカの一般ユーザーも依然としてTikTokを使い続けられていますが、将来的な「完全分離（中国資本からの離脱）」の圧力は依然として消えていません。