PR

耐震強度偽装事件から学ぶ地震への備え

PR
スポンサーリンク

いま一度考える耐震とコスト

2005年に発覚した「姉歯事件(耐震偽装事件)」は、日本の建築業界の信頼を揺るがす大きな事件でした。

姉歯元建築士が手がけた物件の実際の強度がどれほどだったのか、その具体的な数字と当時の状況を整理して解説します。

姉歯元設計士の構造計算 実際の強度はどれくらい弱かったのか

結論から言うと、最もひどい物件では建築基準法が定める耐震基準の「3割程度」*しか強度がありませんでした。

当時の調査(国土交通省発表)による強度の内訳は以下の通りです。

強度の区分状況の詳細
震度計数の0.5未満極めて危険。 震度5強程度の地震で倒壊する恐れがあるレベル。
0.5以上 〜 1.0未満基準には満たないが、直ちに倒壊する危険性は0.5未満よりは低い。
1.0以上偽装の疑いがあったものの、再計算の結果、基準を満たしていたもの。

具体的な数値の衝撃

通常、マンションなどの建物は「震度6強から7」の地震でも倒壊しないように設計されることが義務付けられています(耐震強度1.0)。 しかし、姉歯氏が関与した物件の中には、耐震強度が0.3〜0.4というものが多数存在しました。これは、本来必要な鉄筋の量が半分以下、場所によっては3分の1程度しかなかったことを意味します。

なぜ強度がそこまで低くなったのか

姉歯元建築士は、専用の構造計算ソフトのデータを書き換えるという手法で偽装を行いました。

  • 鉄筋を減らす: 柱や梁の中に入れる鉄筋の数を大幅に減らしました。
  • コストカットの圧力: マンション開発業者(デベロッパー)からの「建設費を安くしろ」という強い圧力に応えるため、鉄筋量を減らしてコストを下げる偽装に手を染めたとされています。これは発注側の責任も厳しく問われなければいけません。
  • チェック機能の欠如: 士業に対する「信頼」と性善説に立っており、当時は民間検査機関の審査が形骸化していた事も一因とされています。それにより数値の矛盾を見抜けませんでした。

「震度5で倒壊」という恐怖

当時の専門家の分析では、強度が0.3〜0.5程度のビルは、「震度5強から震度6弱」の地震で、1階部分が押しつぶされる(ピロティ構造の崩壊など)可能性が高いと警鐘を鳴らされました。

実際、事件発覚後に対象となった多くのマンションやホテルが、補強工事ではなく「解体・建て替え」を余儀なくされました。補強するよりも、作り直したほうが早いほど骨組みがスカスカだったためです。

ピロティー構造

姉歯物件の強度は、最悪のケースで基準の30%程度でした。これは、日本の厳しい耐震基準を前提にすると「地震が来ればいつ倒れてもおかしくない」という、極めて衝撃的な数値だったのです。

韓国ソウルの三豊百貨店との比較

姉歯元建築士による耐震偽装事件と、1995年に韓国で発生した三豊(サンプン)百貨店崩壊事故は、いずれも「コスト削減や利益追求のために構造上の安全性を犠牲にした」という点で共通していますが、「崩壊に至ったプロセス」と「被害の形態」には大きな違いがあります。

それぞれのケースを比較すると、三豊百貨店がいかに絶望的な状況であったかが浮き彫りになります。

姉歯事件 vs 三豊百貨店 比較表

比較項目姉歯事件(日本)三豊百貨店崩壊(韓国)
主な手口構造計算ソフトのデータを改ざんし、設計段階で鉄筋量を減らした。建設途中の用途変更(オフィス→デパート)、無断増築、柱の細分化・撤去。
強度のレベル最悪の物件で基準の約30%(0.3)計算不能なレベル。本来の設計を無視した過積載と構造破壊。
実際の結末地震が来る前に発覚し、住民は避難。建物は後に解体・建替え。通常営業中に突然崩壊。 死者502人、負傷者937人の大惨事。
崩壊のトリガー(もし発生していれば)震度5強〜6程度の地震。自重(建物の重さ)。 地震なしで、建物の重みに耐えきれず崩壊。
三豊百貨店崩壊事故

構造的な「危なさ」の違い

姉歯物件:地震がなければ立っていられた

結果論ですが、姉歯氏が偽装したマンションは、日本の厳しい耐震基準(震度6〜7に耐える設計)に対して3割程度の強度でした。これは「普段の生活(重力)」には耐えられますが、「地震(横揺れ)」が来た瞬間に耐えられないという脆さです。いわば「平常時は平気だが、いざという時の貯金がゼロ」という状態でした。

三豊百貨店:立っていること自体が奇跡だった

三豊百貨店の場合、設計変更によって建物の自重が想定を遥かに超えていました。

  • 柱を細くした: 売り場を広く見せるため、柱の直径を80cmから60cmに細くし、鉄筋の数も減らしました(16本から8本)。
  • 致命的な5階部分: 当初4階建ての予定が、無理やり5階を増築。さらに、5階に床暖房(重いコンクリート層)を備えた韓国料理店を複数入れたため、設計荷重を大幅に超過しました。また、新たに吹き抜けを設けたために強度が低下した。
  • 工法の選択ミス:本来、を使用すべきところを、荷重制限のある柱で建物を支える建築工法(フラットスラブ構造)を採用していた。
  • トドメの空調機: 屋上に設置された巨大な冷却塔(数十トン)を、クレーンを使わず「引きずって」移動させたため、屋根に致命的な亀裂が入りました。

教訓:なぜ三豊は防げなかったのか

姉歯事件は、地震大国である日本において「計算上の不正」という目に見えない段階で発覚しました。一方、三豊百貨店は崩壊の数日前から「天井から砂が落ちる」「床に亀裂が入る」「建物が傾く」といった明確な予兆がありました。

しかし、経営陣が利益を優先して避難指示を出さなかったことが、500人以上の犠牲者を出す最悪の結果を招きました。姉歯事件の物件が「地震で倒れる前に見つかった」ことは、日本の検査制度(不完全ではありましたが)が辛うじて機能した、あるいは内部告発があったからこその不幸中の幸いと言えるかもしれません。

日本の建物の建設時期と耐震性

日本の既存建物の耐震性は、「いつ建てられたか」によって極めて大きな差があります。

結論から言うと、最新のデータ(2024〜2025年時点の推計)では、日本の住宅全体の約87〜90%は耐震性が確保されています。しかし、残りの約1割(約500万〜700万戸)は依然として震度6強以上の地震で倒壊するリスクを抱えているのが現状です。

建物の年代ごとの強度の目安を整理しました。

年代別・耐震強度の目安

日本の耐震基準は、大きな震災があるたびに強化されてきました。

建築時期基準の名前強度の目安
1981年5月以前旧耐震基準震度5程度の地震で倒壊しないレベル。震度6〜7は想定外。
1981年6月以降新耐震基準震度6強〜7の地震でも「崩壊・倒壊しない」ことを目標。
2000年6月以降2000年基準地盤調査の義務化、接合部の金物指定など、木造住宅の安全性が格段に向上。

特に注意が必要な「旧耐震」と「グレーゾーン」

  • 旧耐震(1981年以前): 耐震診断を受けると、その約9割以上が「耐震性不足」と判定されます。
  • 新耐震の初期(1981年〜2000年): 「新耐震だから安心」と思われがちですが、木造住宅の場合、2000年の法改正前の建物は約8割以上が現行基準を満たさないという調査結果(木耐協2025年発表)もあります。

建物種別ごとの耐震化率(2024年3月末時点の概況)

公共施設やマンションなどは比較的対策が進んでいますが、戸建て住宅が課題となっています。

  • 公立小中学校: ほぼ100%。避難所となるため、最優先で対策が完了しました。
  • 防災拠点(警察署・消防署など): 約96.8%
  • マンション: 建て替えや改修の合意形成が難しいため、旧耐震物件の耐震化は遅れ気味です。
  • 一般住宅(戸建て): 耐震化率は約90%に達しつつありますが、地方や高齢者の世帯では「旧耐震」のまま住み続けているケースが数多く残っています。

「耐震等級」という新しい指標

「建築基準法(耐震基準)」は最低限のルールですが、最近の注文住宅などではさらに高い**「耐震等級」**が一般的になっています。

  • 耐震等級1: 建築基準法と同じ。
  • 耐震等級2: 基準の1.25倍の強さ(学校や病院レベル)。
  • 耐震等級3: 基準の1.5倍の強さ(消防署や警察署レベル)。

近年の巨大地震(熊本地震など)では、耐震等級3の住宅はほとんど無被害だったことが報告されており、現在の新築では「等級3」が推奨される傾向にあります。

まとめ:あなたの建物はどう評価されるか

もしご自宅や検討中の物件の耐震性が気になる場合、まずは「1981年」と「2000年」という2つの区切りを確認することが重要です。

  • 1981年以前: 専門家による耐震診断を強く推奨。
  • 1981年〜2000年: 木造なら接合部などの点検を推奨。

もし耐震診断や耐震補強などを行っていないようでしたら早急な対応が必要です。

コメント

Social Share Buttons and Icons powered by Ultimatelysocial