
職業ミスマッチ
先日のことですが、「一般事務職」を増員のため、派遣会社を通して面談を行いました。先々、正社員登用前提の募集で、若年層が2名と30代が1名。30代の方は経験者でしたが、若い方々は未経験で新卒くらいの歳でしたので驚きました。一方、現業については人手不足で、募集を掛けても集まらないのが実情です。その状況、まさに今の日本の労働市場が抱える「巨大なミスマッチ」を象徴しています。
「体は動かしたくない、でも事務がいい」という若者の心理と、それにつけ込むような非正規雇用の拡大。この構図が生み出している「事務職のレッドオーシャン化」なのでしょうか。
1. 数字で見える「地獄の椅子取りゲーム」
事務職への殺到ぶりは、有効求人倍率を見ると一目瞭然です(2025〜2026年時点の傾向)。
- 一般事務:約 0.3〜0.4倍(3人に1人しか座れない椅子)
- 建設・土木:約 7倍以上(1人に7つ以上の求人がある)
- 介護・サービス:約 3倍以上
つまり、事務職を希望した瞬間に、わざわざ「最も競争が激しく、買い手市場(会社が強い)な場所」に飛び込んでいることになります。
2. なぜ「非正規」でも事務がいいのか?
新卒で非正規を選んでまで事務にこだわる背景には、現代的な切実な心理があります。
- 「3K(きつい・汚い・危険)」への強い忌避感: SNSでキラキラしたオフィスワークが可視化される一方、現場仕事の過酷さが強調され、「負け組」のようなイメージを抱いてしまう。
- 消去法の選択: 「営業はノルマが怖い」「理系スキルはない」「体力に自信がない」と消していくと、最後に残るのが「事務」しかないという現実。
- ワークライフバランスへの幻想: 「事務なら定時で帰れるはず」という期待(※実際は人手不足で激務な事務も多いのですが)。
3. 「事務系への殺到」に潜む3つのリスク
今の時代、この流れに乗ることには大きな落とし穴があります。
- 賃金の頭打ち: 供給過多(やりたい人が多すぎる)なため、企業側は給料を上げる必要がありません。結果、肉体労働系の賃金が上昇する一方で、事務の年収は停滞したままです。
- AIによる代替: 最もAIに置き換えられやすいのが「定型的な事務作業」です。10年後、その椅子自体が消滅している可能性があります。
- スキルが積めない非正規ループ: 事務の非正規は「誰でもできる仕事」を割り振られがちで、専門性が身につきにくく、正社員へのステップアップが難しくなる「キャリアの罠」にハマりやすいです。
[ 視点のアップデート ] 結局のところ、「肉体労働(現場)」と「単純事務」の価値が逆転し始めているのが今のリアルです。現場系は「DX化が進んで実は以前ほど体力勝負ではない」職場も増えており、逆に事務は「高度なITスキルがないと生き残れない」場所になっています。
挑まない学ばない若者たち
「学ばない若者たち」という言葉、教育現場やビジネスの最前線で耳にすることが増えた印象です。かつての「石の上にも三年」という耐える美学が消え、「コスパ」や「タイパ(タイムパフォーマンス)」が至上主義になった結果、深い習得を避ける傾向があるのは否定できない事実かもしれません。
ただ、彼らを単に「怠慢だ」と切り捨ててしまうと、今の日本が抱える根深い問題を見落としてしまう気がします。なぜ彼らは「学ばない」のか、その構造を少し冷徹に分析してみましょう。
1. 「学びのインセンティブ(報酬)」の崩壊
かつては「学べば給料が上がる、出世する」という明確な相関関係がありました。しかし今はどうでしょう。
- 年功序列の残滓: 頑張ってスキルを磨いても、結局は「働かないおじさん」の方が給料が高い。
- 実質賃金の停滞: 学んだところで、生活が劇的に豊かになるイメージが持てない。
- 「正解」の短命化: 苦労して身につけた知識が、数年後にはAIや新技術でゴミになる恐怖がある。
若者からすれば、「リターンが不透明なものに、貴重な時間(コスト)を投下したくない」という、ある種合理的で冷めた判断が働いています。
2. 「消費」としての情報摂取
「学んでいない」のではなく、「学んでいるつもり」になっている罠もあります。
- 動画で満足: YouTubeやTikTokで「解説動画」を見て、分かった気になる。それは単なる「情報の消費」であり、自分の血肉にする「学習(訓練)」ではありません。
- 思考のファストフード化: 答えだけを欲しがり、プロセス(なぜそうなるのか)を深く掘り下げることを嫌います。その結果、応用が効かない「マニュアル人間」が量産されています。
3. 「失敗」を許さない社会の空気
今の若者は、デジタルタトゥーやSNSでの炎上を恐れ、極端に「恥をかくこと」を避けます。
- 学び=恥をかくプロセス: 本来、学びとは「できない自分」を認める痛みを伴うものです。
- 安全圏からの不参加: 失敗して笑われるくらいなら、最初から挑戦せず、現状維持(そこそこの事務職など)に留まろうとする心理が働きます。
日本の将来:二極化の加速
「学ばない層」が事務職などのレッドオーシャンに殺到する一方で、自ら問いを立てて学び続ける「極少数のトップ層」が、富と機会を独占する格差社会がさらに加速するでしょう。
皮肉な現実 「学ばない」という選択は、短期的には楽ですが、長期的には「代替可能な存在」として買い叩かれるリスクを背負い続けることになります。
教育の重要性
この「学ばない若者たち」という現象について、「教育システムの問題」と「彼らをどう動機づけるか(マネジメント側)」の視点で見てみます。
ダニング=クルーガー効果
ダニング=クルーガー効果とは、あるタスクにおける能力が低い人が自分の能力を過大評価する認知バイアスです。この図は、経験によって人の自信がどのように変化するかをグラフで表したものです。ダニング=クルーガー効果は、教育、ビジネス、政治など、多くの分野に影響を与えています。

この図は、横軸に「知識・経験(能力)」、縦軸に「自信」をとった時の推移を表しており、主に以下の4つのステージで構成されます。
- 馬鹿の山 (Peak of Mount Stupid) 少し知識を得たばかりで、自分の能力を過信し、自信が絶頂に達している状態。「自分は何でも知っている」と勘違いしやすい時期です。
- 絶望の谷 (Valley of Despair) 学習が進むにつれ、自分の無知さや分野の奥深さに気づき、急激に自信を喪失する状態。
- 啓蒙の坂 (Slope of Enlightenment) さらに研鑽を積むことで、本当の意味での理解が深まり、根拠のある自信が少しずつ回復していく状態。
- 継続の台地 (Plateau of Sustainability) 豊かな経験と知識に基づき、高い専門性と安定した自信を兼ね備えた状態。
この効果を知ることで、「自分はまだ何も分かっていないかもしれない」と客観的に自分を見つめ直す(メタ認知)きっかけになります。
より分かりやすく解説
自信のピーク このビジュアライゼーションは、自信のピーク、つまり新しいスキルを学び始めたばかりの人物を描くことから始まります。これはダニング=クルーガー効果が作用している好例です。人物は自分がどれだけ知らないかを全く認識していないため、自分の能力に過度の自信を持っています。
苦しみの淵 経験を積むにつれて、人は自分がいかに知らないかに気づき始めます。これは、圧倒され、自信を失うことにつながる可能性があります。これは「苦しみの淵」として知られています。
エキスパートレベル 視覚化によって、その人がエキスパートレベルの経験に到達していることが示されます。この時点で、その人は自分の能力をより現実的に理解しています。最初の頃ほど自信はないかもしれませんが、不安もそれほどではありません。
最後に、専門家は知識を称賛されている様子が描かれています。しかし、専門家は称賛よりも課題の難しさに気を取られています。これは専門家に共通する特徴で、彼らは往々にして、認められることよりも仕事の難しさにばかり気を取られがちです。


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