
中国の政治状況と、国民(あるいは指導部)の「本音と建前」が入り混じった複雑な現状
「表向きは忖度しつつ、裏(私生活)では日本製品や旅行を好む」という現象は、現代中国社会を象徴する「政冷経熱(せいれいけいねつ)」、あるいは最近ではさらに進んだ「政冷民熱」とも言える二重構造をよく表しています。
現在の状況を、いくつか具体的に整理してみましょう。
国家としての「建前」:愛国教育と経済制裁
習近平政権下では「中華民族の偉大な復興」を掲げ、強力な愛国主義教育が行われています。特に日本に対しては、歴史問題や台湾問題(特に2025年後半の外交危機)を巡り、厳しい姿勢を崩していません。
- 日本旅行の制限: 2025年末以降、台湾問題を巡る発言への対抗措置として、中国政府は旅行会社に対し日本ツアーの制限や自粛勧告を出しています。
- 不買運動の煽動: 官製メディアを通じて「日本製を避け、国産(国潮)を支持しよう」というメッセージが発信されることがあります。
国民の「本音」:品質への信頼と日本旅行への憧れ
一方で、多くの中国国民(特に中間層以上)にとって、日本製品や日本旅行は依然として「高品質で安全」というステータスであり続けています。
- 「忖度」しながらの消費: 公の場で日本を褒めることはリスクになるため「忖度」して控えますが、個人で使う化粧品、カメラ、医薬品、育児用品などは「やっぱり日本製がいい」と選ばれる傾向が非常に強いです。
- 「政治と個人は別」という意識: 2025年の最新の調査やSNSの反応を見ると、政府が日本への反発を強めても、一般市民の間では「政治は政治、旅行や買い物は別」と割り切る人が増えており、かつてのような大規模な破壊を伴う反日デモは起きにくくなっています。
指導部や産業の「実情」:日本なしでは立ち行かない現実
「日本製の物を使う」というのは、個人の趣味だけでなく、中国の国家運営そのものにも言えることです。
- ハイテク製造の基盤: 中国が「国産化」を叫んでも、スマホやEVを作るための工作機械、半導体製造装置、高機能材料(センサーや部品)の多くは日本製(キーエンス、ファナック、信越化学など)です。これらを使わずに中国の工場は稼働できません。
- 特権階級の嗜好: 習近平国家主席自身は、公式の場では「紅旗」などの国産車に乗りますが、かつて指導部がレクサスなどの日本車を公用車として愛用していた時期もあり、その品質の高さは政府中枢も熟知しています。
なぜこの矛盾が続くのか?
中国のSNS(Weiboや小紅書)では、日本旅行の写真をアップする際に「政治的なコメントは控えてください」といった注釈をつけるユーザーがよく見られます。これはまさに、「社会の空気(忖度)を読みながら、個人の豊かさを追求する」という現代中国人の処世術です。
習近平政権も、国民の不満を逸らすために「日本叩き」を利用しますが、本気で日本との経済を断絶させれば自国の製造業や経済が立ち行かなくなるため、結局は「厳しく批判しながら、裏では深く依存し続ける」という構図が続いています。
日本の論客が忖度する訳
日本の論客が「中国に対して忖度」しながら「日本政府を激しく批判」する構造には、一見矛盾しているようでいて、実は「ビジネスとしての合理性」と「情報の支配構造」が深く関わっています。
彼らにとって、政府批判は中国への配慮を隠すための「煙幕」であり、同時に自分の立場を守るための「武器」でもあります。その裏側を整理します。
1. 中国への忖度が生まれる「構造的弱点」
日本の言論人が中国に対して慎重(あるいは擁護的)になるのは、主に以下の「3つの人質」があるからです。
- 「取材ビザと拠点」の人質:中国政府(共産党)を本気で怒らせると、現地支局の閉鎖や記者の追放、ビザ発給拒否が即座に行われます。中国の生の情報が取れなくなることは、言論人として「死」を意味するため、決定的な批判を避ける忖度が働きます。
- 「経済的スポンサー」の圧力:大手メディアや番組のスポンサーである日本企業の多くは、中国市場に深く依存しています。論客が中国を激しく叩き、不買運動や工場封鎖のリスクを招くことを、スポンサーは極端に嫌います。
- 「歴史と人権」というカード:中国側は、日本が批判を強めようとすると「歴史認識」を持ち出して反撃します。日本のリベラル系論客にとって、このカードは自身の思想的アイデンティティ(平和主義・反省)に直結するため、強く反論できず、結果として忖度に近い形になります。
2. 「政府批判」が中国への忖度を隠す「手段」になる理由
なぜ「中国に忖度する人ほど、日本政府を激しく叩く」のか。そこには巧妙なロジックが存在します。
- 「相対化」による擁護:中国の人権問題や強硬姿勢が批判された際、「日本政府だって〇〇の問題がある」「日本も過去に同じことをした」と日本政府を叩くことで、中国の非道を相対化し、批判の矛先をそらす手法です。
- 「平和主義」を隠れ蓑にした無効化:日本政府の防衛力強化を「戦争への道」と批判することで、結果として中国の軍事拡大に対する抑止力を弱める効果を生みます。これは「平和を守る」という大義名分を掲げつつ、実質的には中国の戦略を助ける形(忖度)となります。
- 「日本が悪いから中国が怒る」という論法:日中関係の悪化をすべて日本政府の外交的無策や挑発のせいにする批判です。これにより、「中国側の非」には触れずに、すべての責任を自国政府に押し付けることができます。
3. 左翼ビジネス・言論ビジネスとの合流
2026年現在の視点で見ると、この「忖度と批判」のセットは、非常に安定したビジネスモデルになっています。
| 要素 | 役割 |
| 中国への忖度 | 情報アクセスの維持、親中派ネットワークからの支援、スポンサーへの配慮。 |
| 政府批判 | 「権力を監視する正義の味方」というブランディング、反対派層からの支持(購読・投げ銭)。 |
| セットのメリット | 中国からは「話せる相手」として優遇され、国内では「進歩的知識人」として稼げる。 |
まとめ:なぜこの構図が続くのか
論客が「日本政府を叩く」のは、ある意味で安全な商売だからです。日本政府をいくら叩いても、逮捕されることも支局を閉鎖されることもありません。一方で、中国を本気で叩けば、実利的な報復が待っています。
結果として、「最も安全に正義の味方を演じつつ、最も恐ろしい相手には配慮する」という、極めて打算的な「忖度の二重構造」が日本の言論界に定着してしまっているのです。


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